あるところから「創業支援者研修」をお願いしたいというオファーがWebを通じてありました。
ちょっとニーズがあるのかなぁと思い、以前九州経済産業局で同じテーマでセミナーをおこなった内容をまとめてみました。
創業支援者とは金融機関の職員の方、商工会議所・商工会などの商工団体の職員の方、そして中小企業診断士・税理士などの士業の方を指します。
目次
1 創業希望者のレベルと特徴、それぞれの処方箋
タイプA いずれ創業したいと思っているが何をしたいかは未定
(特 徴)
・将来的に事業をしたいという希望はある
・とくに「これがしたい」という業種はない
・セミナー参加においても「事業したい」という欲求より「勉強したい」欲求が強い。
(処方箋)
・過去の実績、資格の有無、資金状況など強みの聞きだし
・強みの中から特に生かせそうなものをアイデアラッシュ、事業意欲を確認の後、アイデアから事業のタネを発掘
・場合によっては時期早尚の判断。今後の実行項目の検討
タイプB やりたい事業はあるが、計画が固まっていない
(特 徴)
・業種は決まっているが、ターゲットやセールスポイントがきまっていない
・創業のスケジュールが漠然としているかきまっていない
・資金のメドがたっていない
(処方箋)
・「したい業種」の中でもっとも強みが発揮できるところはどこかなどヒアリング
・上記よりターゲットの設定やセールスポイントの設定
・資金、計画等から場合によっては時期早尚の判断も。
タイプC やりたい事業はあり、 計画は作っているが、競争力がきびしい
(特 徴)
・「したいこと」にシフトしすぎて、顧客の啓蒙が必要な計画
・ターゲットが広すぎて、特長が見出しにくいビジネス
・類似のビジネスがあり、顧客の購買理由が見出しにくい
(処方箋)
・啓蒙が必要なビジネスは時間がかかる旨の説明。資金と時間のバランスを評価
・ターゲットの細分化のアイデアラッシュ
・競合との棲み分け、セールスポイントのブラッシュアップ
タイプD 計画が固まっており、競争力も十分で、かつ、自己資金の範囲で行う
(特 徴)
・事業計画は「強み」を生かせており、特長も十分にある
・すでに相談者自身が顧客を持っている
・その他売上のメドがたっている
(処方箋)
・法人登記や事業届けなど法的手続きの案内
・売上予測と細分化(月次・顧客別)、実行項目の設定とスケジューリング
・売上向上に関しての支援のアドバイス
Eタイプ 計画が固まっており、競争力も十分であるが 創業資金の借入れが必要
(特 徴)
・事業計画は「強み」を生かせており、特長も十分にある
・すでに相談者自身が顧客を持っている
・その他売上のメドがたっている
(処方箋)
・金融機関にプレゼンテーションできる資料の作成
・法人登記や事業届けなど法的手続きの案内
・売上予測と細分化(月次・顧客別)、実行項目の設定とスケジューリングおよび売上支援に関するアドバイス
いままで創業の支援をしてきた方々を思い出し、強引に5タイプに分けてみました。Dタイプの方はほぼお目にかかったことがありません。創業セミナーなどで出会う方はBタイプ、Cタイプの方々が多いようです。まぁ、そこから話を聞き、ブラッシュアップしながらDやEのタイプに持っていくのが支援者の役割と言えます。
基本的には「創業」は「自己実現」なので、前向きに応援するということが基本姿勢です。一方で、二代目経営者として資金繰りに窮した経験もあるので、あまりに安易にすすめるのも無責任というもので、創業のメリット・デメリットをキチンとお伝えする(これを理解していただくのが意外と難しいのですが)ことが必要だと思います。
2 支援者にまず必要なものは計画策定スキルよりコミュニケーションスキル
ずいぶんいろんな方をご支援してきましたが、いきなり事業計画の深い話になることは、まず、ありません。
けっこう多いのは、「あったほうがいいかもしれないけど、まだ、この世に存在しないので、普及啓蒙が必要なビジネスアイデア」だったり、「なんとなくビジネスの概要は理解できるが、いつ・どういうタイミングで顧客がその商品やサービスを購入するのかがわからないビジネスアイデア」というものです。
「そりゃぁビジネスになりませんよ」と言うのはかんたんですが、多分そこで突き放しても問題は解決しないんじゃないかと思います。
そんなとき、自分は「この人はなぜ、そう考えたのか」「この人の背景は何なのか」などをひたすら話をしていただき、情報を集めるようにしています。相談者の本音って最初からでてくくることはまずありません。話をしているうち、質問に答えれているうちに相談者の本音や根っこが見えてくる場合もあります。
それが見えてくると、相談者が解決したいことは別の方法でも可能じゃないかということが見えてくることもあります。
そこで、「解決したいこと・実現したいこと」を共有して、その手段を2人で検討して一致点をみつけていく。
いつもというわけではありませんが、そういう相談対応ができたときは、旨い酒が呑めますね。
計画作成スキルは不要と言うのは言い過ぎですが、やはり支援の入り口はコミュニケーションスキルだと思います。
私が相談対応のときに意識している事をいくつかあげてみます。
- 相手は省略して話しているので、質問し極力相手に話をしてもらう。
- 相手の話をとにかくメモする。書いたことをときどき確認する。
- 否定せず、うなづきや笑顔など話しやすい空間を作る。基本7:3くらいで相手が話しているような空間を作る。
といった感じです。NLPでならったカウンセリングスキルといったものでなかなか役に立ちます。
質問も2種類あり、ハイ・イイエでこたえられない「オープンクッション」とハイ・イイエでこたえられる「クローズドクエッション」に別れます。
たとえば「昨日の晩御飯は何を食べましたか?」と言うのはオープンクエッション。ハイ・イイエで答えらないですよね?「昨日の晩御飯はてっちりでしたか?」というのがクローズドクエション。「ハイ、てっちりでした/イイエ、てっちりではありませんでした」という具合に答えられますね。
人間、すべてのことを論理だって話すことができず、省略して話しているので、できる限りオープンクエッションで質問していきます。ただ、あまりオープンクエッションばかりを使っても詰問調になってしまうので、答えやすいクローズドクエッションを混ぜながら質問していきます。相手の表情が和らいできたら、相談は多分成功です。
計画の中のマーケティングや財務の部分の留意点については、また、あらためて書こうと思います。
3 支援者は自分の常識で判断してはいけない。
自分も創業する前か、してすぐのこと、何回か相談に行ったことがあります。
ずいぶん上から目線で言われたこともあったし・・・。
正直、「わからんから聞きに来てるんだよ!」という思いもありました。流石に口には出さないけれど。
多分そういう思いは今もあるはずですよね。
たまに、「もしブックオフの創業者が自分は『古本屋』を開業したいんですが」と相談しに来たらどう答えるだろうかと考えることがあります。
古本なんてやめときなさいというのか、そのシステムに着目して面白いと答えるのか・・・。
どう答えるのか自信がありません。
1つ言えるとすれば、自分の持っている物差しだけで判断しては行けないということ。
-
自分の常識で判断しないこと
-
十分に相手の話を聴くこと
-
情報収集を怠らないこと
-
広い目と厳しい目の両方を併せ持つこと
- 「支援先の自己実現が目的」ということを忘れないこと
こういう基本姿勢が大切だと思うのです。
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