早いもので独立して19年。中小企業診断士としての最初の仕事は福岡市役所の経営相談窓口の相談係から始まりました。今でも中小企業基盤整備機構にて経営相談窓口の対応をしておりますので、窓口対応に関してはかなりのベテランといえばベテランです。私の担当は新規創業やマーケティング・販路にかかわるものとなっています。窓口相談で行っている「相手に納得してもらえる」「合意を形成する」ということは、一般のビジネスにも役立つのではないかと思い、まとめてみることにしました。
窓口相談では以下のような手順で行っています。
- 何の相談かを理解する
- 情報を聞き出し、整理する
- 確認・提案し、相手の意見を聞く
大体以上のような手順です。
手順に応じてどのようなことを行うかを説明していこうと思います。
1 何の相談かを理解する
相談に来られる方で、自分の困りごとをきちんと説明できない方は想像以上に多いです。「明日の手形が落ちない」といった問題が一点集中している場合は別 なのでしょうが、事業計画や販売計画が思うようにうまくいかない場合など、話す要素が多すぎて、相談者自身が今日は何を聴きたいのか、どんな問題を解決したいのかがはっきりしないことはしばしばあります。公的機関の相談窓口はだいたい60分から90分程度です。慣れないときは、時間を気にするあまり、私のほうで勝手に理解したつもりになり、途中で終えようとしたこともありました。ただ、この部分をおろそかにしては絶対に相談はうまくいきません。
そう認識してからは、この部分に時間を変えるよう心がけています。相談者の方にはご足労をかけることになりますが、正直、この部分で相談終了ということも稀にあります。もちろん、不満が残らないよう気を付けるべき点はありますが。
この段階でやるべきことは「ひたすら聞くこと」その際に必ずキーワードをメモし、できればキーワードの関係を図示できればなおいいと思います。
相談窓口というシチュエーションで話を聞くことは少ないと思いますが、部下と面談する際なども、最初に相手がなにが言いたいのかを合意するまでは、「ひたすら聞く」を実践してみたらどうかと思います。
あと、話しやすい雰囲気づくりも大事ですね。
例えば、聞く側の姿勢や表情などでも話しやすさは変わってきますし、答えやすい質問をすることで、まず口を開いてもらうということも雰囲気づくりには役立つと思います。
質問にはハイ・イイエで答えられない「オープンクエッション」とハイ・イイエで答えられる「クローズドクエッション」に分けられます。
答えやすい質問はクローズドクエッションのほうです。たとえば、
「今日は電車で来られましたか?」
「ハイ」
「この時間混んでましたか?」」
「イイエそうでもなかったです」
などというやり取りはクローズドクエッションを利用した例です。
ちょっとしたことなのですが、これだけのことでも話す雰囲気が変わることもあるので不思議なものです。
2 情報を聞き出し整理する
ひととおり話を聞き終わると今度はメモを見ながら質問していく番です。
前提となるのは「人は省略して話している」ということ。
話をするうえで、すべての情報を最初から話すことができる方はいません。
ですから、不足する情報や辻褄があわない情報を聞いていきます。
「そもそもこの事業を思いつかれたキッカケは何だったのでしょうか」
「先程はターゲットは××とおっしゃいましたが、これだと先程からの流れと矛盾しませんか」
こちらが質問し、それに答えることで、自分で気づいたり、確認できたりすることは確かにあります。この段階では情報を聞き出すことが大きなテーマです。質問の技法を使って、相手にたくさん話してもらうことが大事です。7:3くらいの比率で相手に話してもらうくらいがちょうど良いように思います。
この段階で質問とともによく使うのは図式化です。
ヒアリングの情報を記入し、矢印で順番付けをを表したり、相反する情報は⇔で表してたりして、情報の全体像を極力図にするようにしていきます。
言葉は消えてしまいます。当たり前の話ですが。
ですから、いくら良いことを言ったとしても、相手の記憶に残るのはほんのわずかです。
そこで窓口相談の時には、極力メモを取り、言った内容の確認やこちらの意図もメモしておき、文字で確認するという作業が大切になってきます。
「聴く」とともに「書く」という作業が相談業務においては大切だと思います。
3 確認・提案し、相手の意見を聞く
相談に来られているわけですから、何らかの回答を示す必要があります。
ここでもフレームワークやチャート図を使って説明することが多いです。
フレームワークとは「考える枠組み」とでも言いましょうか。先人が、これらを考えるときはまず、この点をチェックしなさいという考えるポイントがあります。
たとえば、戦略の大枠を考えるときは「自社・顧客・競合」をチェックしなさいという3C分析などはその代表です。
創業時の事業計画の相談であれば、「理念・創業の想い」から始まって、事業領域の設定、販売する商品・サービスの詳細・顧客へのアプローチとフローチャートが決まっていますので、そこに今までヒアリングした情報を書き込んでいきます。
ここで、まだ、このチャートに埋まっていない情報について相手の意見を確認し、自分なりの意見を述べたり、まだ曖昧な言葉を詰めたりします。
おおよそ、1時間から1時間半の面談時間ですから、すべてを話しきることもできませんし、当然、面談者の方に再考していただくことも必要です。
チャートに文字を入れることにより、何ができていて、何ができていないのかが明確になりますし、次までに何を考えてくるのかという課題もはっきりしてきます。
そして、いつまでに考えて来ていただくかということを決定して、大体一回の面談が終了いたします。
自分自身心がけていることは、決めるのは相談者ですから、極力、自分で決めやすいよう情報を整理するということ。また、基本的な考え方や流れなどは説明しますが、誘導しないように、自分の価値観で判断しないように心がけています。
基本、「答えは自分が持っている」わけですから、そのお手伝いをすることを窓口に座りながら考えています。
4 まとめ
1時間から1時間半の面談で、ほぼ初対面の方が相手ですから、その方の背景や考え方を知ることがまず最初になります。
会社内での上司と部下の面談でしたら、この部分は大きく省略できると思います。
面談で実際に以下の点を試してみたらいかがでしょうか。
- 面談の最初はクローズドクエッションで、話しやすい雰囲気を作っていく
- オープンクエッションで7:3で相手に話をしてもらう
- 話した内容はメモし、関係性などを図式化してみる
- マトリックスやチャート図に意見をまとめ、何を次回考えるべきかを共有する。
20年近く相談窓口業務に携わってきた私の体験談です。何かのご参考になれば。
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